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付き纏う幻影のパンツ
IV - お前は導かれている。
エルシーは彼方の野営地にいない。出直すべきかもしれない。だが、エリスがトランスマットから姿を現すと、放浪者がエルシーの空飛ぶ奇妙なロボットに詰め寄っていることに気付いた。
「おい、お前は誰だ?」放浪者がいぶかしげに言った。
「かまうな。ジグラットが実験の開始を待っている」エリスはそう言ってほとんど具現化しきっていたスパローに跨がると、凍り付いたエウロパの雪原へとスパローを急発進させた。
「…俺のものに触るなよ!」エリスの後を追いかける前に放浪者がそれを怒鳴りつけている声が聞こえた。
ジグラットの頂上にいるエリスの顔を冷たい雨が赤く染める。だが、感覚を失いつつある指に広がるチクチクとした痛みに比べればむしろありがたいぐらいだ。彼女は手に入れたエグレゴアを、グローブをはめた片方の手できつく握りしめていた。もう片方の手からは、熱い炎が翡翠色の煙を上げている。
彼女は放浪者の指示に従い、茎の両側に火を付けた。灰になりゆく胞子が厚い雲となって彼女の体を包む。視界は真っ黒なベールに覆われたようにぼやけ、ついにはすべてが遮られた。
かすかな囁き声。
荒れ狂う風の中で大きくなる合唱。
心の表面で言葉になる音。
「聞こえたか?」放浪者が質問する声が彼女の意識の外で囁きかけている。
ジグラットが音叉のように共鳴している。煙の中で振動が形を持とうとしていた。そしてエリスは自分が遠くの虚空へと引っ張られていくのを感じた。エリスがその先へと向かうと、渦巻く煙の中に黒い深淵のような裂け目によって隔てられた星のような点があるのが見えた。共鳴音が重力波のように深宇宙から響き渡っている。それは歪みながら星々に何度も押し寄せ、やがて他の4つの点にぶつかって砕けた。2つは大きく、2つは小さい。その間には実体のないエグレゴアが広がっている。
やがてエウロパのピラミッド、月、サバスンの玉座の世界が見えた。そしてそれは、溶けて1つになって重なり合っていた。その繋がりが鮮やかな記憶のように彼女の心に焼き付いた。
エリスが瞬きをすると、その感覚が消え去っていく。彼女の握っていたエグレゴアは灰になっていた。